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BackNumber〜EVエコランin菅生

キムヒデのテクニカルレポート

2002/09/03 00:30

菅生で優勝したスーパーでんちくん強力で採用した新しい戦略とは、どんなものだったのだろう? いろんなところ、特にミツバさんののHPなどで期待されちゃっているので、ご恩返しということで、ちょっと難しくなるけど解説しましょう。

1.電池から一定の電流放電を行うメリット
 電池は放電レート(放電電流)が高くなると、電池から取り出すことができるエネルギーが減少します。電池の容量は一般には5時間レート(5HR=0.2C放電)や10時間レート(10HR=0.1C放電)で表記されていますが、放電時間が2時間(0.5C)とか1時間(1C)と短くなってくると著しく放電電流が少なくなってきます。菅生サーキットでは、下り坂はもちろん、惰性で坂を登っている間は電池から放電していないので、レース時間の2時間のうちの1/3の40分程度(=1.5C))しか放電できません。この場合、カタログ表記では7.2Ahの電池であっても加温して5Ah程度の放電しか期待できません。キャパシタによる回生制動&駆動を行うチームだと、30分程度(=2C)とさらに放電時間が短くなる場合もあるようですので非常につらくなってきます。
 そこで2001年の菅生では、ZDPのモスラにDC-DCコンバータを搭載し、回生エネルギーを回収するキャパシタに常に電池から1.5A程度充電しながら走行することを試みました。これにより、確かにキャパシタで登れる距離は伸び、電池を平均的に使えるようになりました。しかし、2001年のモスラではチェーンとギヤの2段減速によるロスが大きいこともあり、馬の背の先にあるバックストレッチの下から1/3程度の地点まで行くとキャパシタ電圧が低下し、そこからは電池に切り替えて大きい電池電流を流す必要がありました。このとき、伝達ロスの小さいDDモーターの必要性を痛感し、籾井君は菅生用DDの製作を決意したようです。当時は、この作戦をもってしても、2001年大会では14周で4位という記録であったことから、キムヒデ自身もDC-DCコンバータのロスなどを考えると、この作戦に自信が持てないでいました。
 しかし2時間のレースの間、電池電流を一定にして流すことができれば、放電電流は約30%程度増加します。放電レートが下がると電池の内部抵抗による電圧ドロップも小さくなるので、エネルギーにすると30%以上のエネルギーを使えることになります。これならばDC-DCコンバータの変換効率が90%程度であったとしても、十分にもとがとれる計算です。ところが、菅生サーキットでは下りの間にモーターパワーを投入すると、速度が出すぎて暴走状態になってしまいます。そこで、一時的にキャパシタへ位置エネルギーと電池からの電気エネルギーを移しかえる必要が出てきました。今回は、DC-DCコンバーターが手元に無かったことから、浪越エレクトロニクスのDCブラシモーター用のコントローラの昇圧回生機能を利用するという超変則的な方法を採用しました。これは、モーターコントローラーの出力に電池をつなぎ、入力にキャパシタをつなぐという頭が混乱しそうな方法です。かなり接続手順が難しく、コントローラを壊す場合があるので注意が必要です。テストしてみたところ意外なことに(失礼!)、変換効率は90%以上あることを簡単な実験ですが確認しました。

2.電気二重層キャパシタの使い方
 ここではまず、キャパシタを搭載したチームにおける従来の利用方法を紹介します。まず、10%勾配を下り始めたあたりでモーターとキャパシタを接続して回生ブレーキをかける作戦を採用したチームがありました。2000年と2001年のでんちくんはこの方法だったかな? このとき、キャパシタ電圧が十分にない(プリチャージ不足)と、タイヤがロックしてしまうことがありました。また、電圧が高すぎると回生ブレーキの効きが悪かったりとかなり面倒です。また、切り替え操作の際に大きな回生電流が流れてしまい、トグルスイッチが壊れてしまう危険性も予想されました。
  また、10%勾配の終わり付近(最低点=シケイン付近)の手前でキャパシタを切り離して回生ブレーキをやめ、自由落下で勢いをつけてその後の坂を登り、その後キャパシタに再接続して駆動力を出しながら坂を登るという方法もありました。そして、馬の背付近でキャパシタ電圧が低下して速度が落ちてきたら、再び電池を接続してハイポイント(HP)を目指すというものです。さらに、この両方をやってしまう作戦もありました。菅生では下って登る場所(山と谷)が1周の間に2回あるので、切り替え操作やスロットル調整の組み合わせは無数にあります。
 放電容量を稼ぐために、2時間のレースの間電池から一定電流を取り出すことを目的として、今回、元日本ケミコンの渋谷さんは、充電用キャパシタと駆動用キャパシタの2セットを交互に使う方法を提案しました。駆動&回生に使っているキャパシタセットに対して、他方の余っているキャパシタセットに電池から充電を行っておくわけです。この方法は、ハイポイント(HP)と第1コーナー(反対周りなのでピットから見て右上の最終コーナー)の2カ所の山に対してそれぞれ最適な静電容量のキャパシタを使い、最適なキャパシタ電圧を設定して登っていこうというアイデアです。この発想は、セッティングの自由度が高いというメリットがありますが、使用するキャパシタ量が多くなるというデメリットと、難しいキャパシタ切り替え操作が相変わらず存在するという危険性が残りました。

 

 これに対して、キムヒデは2001年のモスラでの作戦を進化させて、電池から一定電流を放電させて一つのキャパシタでなんとか走りたいと考えました。この方法は、キャパシタの稼働率が高くなり、キャパシタ重量を渋谷案よりも抑えることができます。しかし、2カ所の山と谷を一つのキャパシタで突破しなくてはならないことや、走りながら電池から充電し回生ブレーキによる電流が加わるのでキャパシタの負担率が上がってしまうことが考えられました。もともと内部抵抗が小さいキャパシタは、パワーを負担するために生まれたので、これは我慢してもらいましょう。しかし、電圧上昇幅や最適な静電容量値を予測することが難しいなどのセッティングに関する課題が残りました。

3.高性能モーターの宿命
 変換効率が広範囲な電流領域で高い高効率モーターは、エコラン系のレースには必要不可欠です。高効率を実現するためには鉄損や銅損などの各種の損失を低減しなくてはなりません。その結果、ステータコイルの巻き線抵抗は低下する傾向で、今回、でんちくんで使用したDDモーターは、ミツバのフルサイズソーラーカー用がベースとなっていますが、直流抵抗はたったの0.123Ω(コントローラのFETのON抵抗を含む)であり、エコラン用途としては極めて小さくなっています。ここで、スーパーでんちくん用のDDモーターの特性図を下に示します。この図は電源電圧を24, 30, 40, 50, 60Vとしたときに測定されたものです。この図を見るとわかるように、電流増加による銅損が抑えられている分、ロック電流は24Vで約200A程度と見積もられ、電流の増加に対する回転数の減少はごくわずかとなっていることがわかります。これがパワフルモーターの正体です。私的には、人間もモーターも大きめがいいと思うな。このようなモーターは巻き線抵抗で電流が制限されにくいため、コントローラのボリュームを無造作(とはいっても普通に)に開けると、一気に電流が流れて巨大トルクを発生し、ホイールスピン状態に入ってしまいやすい。そして、回生ブレーキをかけようと思って、従来のようにポンとスイッチでキャパシタに接続してしまうと、数10Aレベルの電流が一気に流れてしまったり、タイヤがロックしてしまう場合があり、操作が非常に難しくトラブルの原因になりやすいので扱いは慎重にしないといけません。

 


 上の図から、40V程度のキャパシタ電圧で15Aでモーターを駆動すると変換効率は90%程度に達し、ピーク効率は90%を超えていました。
 ホンダエンジニアリングのAQUAではこのスイッチ切り替えを操作をFETで行い、スムースにつなげるためにチョッパーしている時間を挟んでなめらかに接続するという手法を採っているという噂ですが、それでも大変なのではないでしょうか? あくまでもひとつの憶測ですが、この辺が今回のAQUAのトラブルの原因につながったのではないかと考えます。このようなタイプのモーター電流をPWMコントロールしようとすると、DUTY比のかなり小さい領域を使う羽目に陥り、あまり好ましい状態ではありません。ということで、普通の感覚で使うとコントローラにかかる負担は通常のモーターよりも大きくなると考えられます。こうなってくると、PWMもできればあまり使いたくないという気持ちがだんだん大きくなてきます。そこで、スロットル全開(PWM 100%)という状況において速度を調整して走るには、キャパシタ電圧の変動をうまく利用して速度制御をかけるのが安全ではないだろうかと考えました。この方法だと、スロットル全開で下り坂に入り、速度が増して回生ブレーキがかかるときには、モーターコントローラーのFETが同期整流してくれるので、効率的にも大変おいしいところが使えると思われます。

4.一定電流方式の場合のキャパシタ静電容量値の最適化
 キャパシタの静電容量を大きくするとキャパシタ重量が増えますが、キャパシタによる制動力が増し最低点の通過速度は遅くなります。しかし、静電容量が大きいので登りになったときには速度低下が少なくなります。一方、容量を少なくすれと車重は軽くなり、最低点の通過速度は速くなります。しかし、静電容量が小さいので登りになると速度低下は大きくなります。したがって、ラップタイムを縮めるためには最適な静電容量と耐圧のキャパシタバンクを構成する必要がありそうです。このことを確認するためにいちばん手っ取り早い方法は、実際にいろいろとテストしてみることなのですが、なま身のドライバーを危険にさらすこともできないし、これまでのZDPの体質からいっても練習走行時間内に十分なテスト時間をとれるはずもなく、とりあえずシミュレーションによって決定してみようと考えました。このシミュレーションの手法は自動車の4大抵抗成分である転がり抵抗、空気抵抗、勾配抵抗、加速抵抗とモーター駆動力のバランスの式が中心となります。さらに、モーター特性図から電流とトルク係数、回転係数、無負荷電流、電気抵抗成分を求め、電気磁気学から得られるキャパシタ電圧と電流の関係を加味してシミュレーションを行っています。WEM勝手に応援サイトのコースデータを信用して計算した結果、手持ちのキャパシタの組み合わせでは日本ケミコン製16.5V-65Fの電気二重層キャパシタを4直2並列にした66V-32.5Fバンクが適当であるとの計算結果を得ました。ここで、スーパーでんちくんについて、シミュレーションによって求めた理想走行パターンを示します。なお、図中のC電圧とはキャパシタ電圧のことを意味しています。

 この走法は、キャパシタとモーターおよびコントローラに瞬間的な負担をかけないで、スムースに駆動と回生が切り替わるという特長があります。安全かつ効率もいい。そして、電流のピークは15A程度と低めで、先に示したモーター特性において効率のおいしいところを使っています。つまり、位置エネルギー、運動エネルギー、静電エネルギーの3つのエネルギーをうまくバランスさせながら走行していることになります。

 ところが、コーナーの影響やシステムの仕様上、そして計算誤差などにより、実際にはこの通りに行かない部分もありました。とくに練習走行の最初の方は、ドライバーの海ちゃんが操作に慣れていないことから6分半程度のラップタイムしか出せませんでした。そこで、とりえず旧型USO800やAQUAなどの上位陣の後ろにくっついて走り(ライン取り等)を学んだ結果、なんとか6分程度に縮まりました。しかし、S字からヘアピンのところの通過速度がシミュレーションでは42km/hとなっていたのですが、ドライバーがまだコースに慣れていないためか、ハンドブレーキで36km/hまで減速してからでないと通過できずにいました。ミツバの斉藤さんの話では、シミュレーションで出した42q/hの速度なら、十分通過できそうだったのに・・・。シミュレーション通りに実際のところ操作できないことは、キムヒデもソーラーカーのドライバーとして自ら経験しているだけに、このときはちょっと焦りました。でも、海ちゃんがミツバのドライバーである斉藤さんやボスの池上さんにシミュレーションどおりS字コーナーで42km/hの速度が出せように、ライン取りのコツを教えてもらった後には、結果的に5分台のラップをたたき出せるようになっていました。写真右のT-Worksドライバーのみなちゃんも斉藤さんにいろいろと教わったことで記録向上を果たしたようですね。

 

 けっきょく、スロットル全開で第1コーナーからホームストレートを下り最低点に達したときの速度など、ほぼこのシミュレーション通りにすべての値は変化してくれたようです。ということで、シミュレーションによって静電容量を最適化することは成功したと言えます。相対的な傾向が当たれば、まずまずと考えていただけにとてもうれしかったですね。やはり、シミュレーションに使用したパラメータなど、これまでに蓄積されたデータと勘が役だったと思います。

 このシミュレーション方法を応用すると様々な走行パターンを想定することができます。たとえば、スタート地点(計測点)で、仮に電池がなくなった(キャパシタ充電が止まる)とすると、バックストレッチを登りレインボーコーナー手前で止まってしまうことがわかります。言い換えれば、キャパシタのプリチャージ分でここまでは登れることになります。充電しながら走った上の図と下の図をよーく見比べると、キャパシタに一定電流充電された場合の走行の様子がわかってくるかな? この方式の場合の速度変化は、充電電流ボリュームの動きにすぐには反応しないで、じわじわと大型船のように? 反応してくる感じではないでしょうか。

 それでは、スタート地点でキャパシタを切り離し140m進んだところで、キャパシタを接続して回生ブレーキをかけるとどうなるでしょうか? 80Aに達する電流が流れる(またはタイヤが滑る)ので、たいへんやっかいです。たいていのスイッチは壊れてしまうでしょう。仮にうまくいったとしても、記録的にも銅損が大きくなるので悪い方向になります。

 ここでは示しませんが、そのまま一気にブレーキをかけずに下るとシミュレーション上は最低点で110km/hまで出てしまうようです。次に、キャパシタの静電容量を仮に2倍にすると、どうなるでしょうか? 下の図を見ると車体の速度変動幅が縮まることがわかると思います。

 このようにコンピュータ上でいろいろと実験できるのでとても面白いですよね。でもシミュレーションが先行しすぎると、ドライバーがコース状況によって設定された走行パターン再現できない場合もあるので、この辺はチーム内で議論しながらモーターやキャパシタのセッティンをつめていく必要があります。ZDPには経験豊富な池上さんや籾井くんをはじめとして、Junkyardなどから応援にきた頼もしいメンバーがいるので、この点の検証には大きな問題はないでしょう。

5.シミュレーションによる予言(ちゃんと確認した訳ではないのですが、たぶん合っています)
(1)キャパシタを多く積んだ方が、速度の変動幅が縮まり空気抵抗による損失が減少する結果、記録向上につながりそうである。しかし計算上は、キャパシタ重量の増加や、ジュール損の増加があるため、最適なキャパシタ重量というものがありそうである。
(2)最低点を通過する際に、キャパシタを切り離して加速し、その後登り坂で速度が適度に下がったところで再度うまくキャパシタに接続できたとしても、ラップタイムに与える影響は小さい。これは、回生をやめて稼げるジュール損と、速度アップによる空気抵抗増が相殺するようである。
(3)ハイポイント(HP)での速度を得るために、手前でPWMにより速度を絞ってエネルギーを残そうとしても、ラップタイムの改善はない。
(4)登り坂でPWMにより速度を絞っても、速度が落ちるだけでラップあたりのエネルギー消費はほとんど減らない。あるいは若干増える。このあたりは、勾配抵抗が支配的な菅生サーキット特有の現象である。
(5)電池とキャパシタのシリーズハイブリッド方式は、バッファーとなるキャパシタ電圧(電源電圧)のレベルを上下に調整できるため、電圧に対するモーター回転数を厳密に設定する必要がない。その分高効率な設計に振ることができる可能性がある。

6.まとめ
 菅生サーキットで初めて試した電池とキャパシタのシリーズハイブリッドは、
(1)電池の放電レートを引き下げることで、出力エネルギーが多くなる。
(2)変化の幅が大きい回生電流や駆動電流をキャパシタのみで効率よく充放電することが可能となる。
(3)PWMコントロールなしで速度をコントロールすることもでき、その場合はモーターコントローラにおける損失を低減できる。
さらに、今後に期待される点として、
(4)モーターの設計自由度を高めることから、コースに対してより高性能なモーターを設計できる可能性を増やす。
(5)内部抵抗が高めの高容量型蓄電池との組み合わせにおいて、もっとも効果を発揮する。とくに燃料電池との組み合わせにおいて、効果を発揮できると考えられる。

最後に
今回は、ミツバの皆さん、とくに裏切り者になってまでモーターを提供してくれた内山さんと竹本さんには大変お世話になりました。そして、コーナーリングについてご指導いただいた斉藤さんどうもありがとうございました。また、電気二重層キャパシタを提供していただいた日本ケミコンの皆さんに感謝します。そして、長町ホテルの籾井社長、宿泊ではお世話になり、わざわざ応援に来ていただいてありがとうございました。古河電池の熊谷さん、いつもお世話になります。T-Worksのオガワさん、写真を送ってもらいありがとうございます。最後に、チームメンバーとして活躍した、小森くん、若松くん、渋谷さん、立脇くん、菊田くん、そして応援に来てもらったEPAの房間さん、ありがとうございました。(k)

 

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